大航海日誌

私の名はジョニー佐山、食品王になる漢である。将来、ライバルと世界の食料流通網を掛けて、料理勝負をするかもしれないし、しないかもしれない。
 一人前の商人として認められた私は、ギルドの依頼でジブラルタル海峡アフリカ側海岸にあるセウタの町に赴くことになった。リスボン出身の私は大西洋をその活躍の舞台にしていた為、入り口とはいえ、海のメインストリームと言うべき地中海に足を踏み入れるのは初めての経験だった。さすが地中海、行き交う船はどれも巨大で、駆け出しの私のバルシャ船「地中海の虎号」は、まるで象の前の子猫のようだった。そうして辿り付いたセウタは、思ったより小さな町だった。やはり私の故郷リスボンより大きな町など、世界中を探しても早々有るものではなかった。首尾よく目的のセウタの酒場にオポルト産のワインを卸した私は、初めて足を踏み入れたアフリカの物産を物色することにした。そこには珍しいハーブが数多くあった。香辛料とは謂わないまでも、曲がりなりにも、これも香料には違いない。私はバジルやパームを大量に仕入れ、それをリスボンで売り払うことにした。
 帰路は余裕があったので、セウタの対岸に位置するイスパニア最大の港町セビリアに寄ることにした。そこにはリスボンとは比べるべくも無い大都会があった。大聖堂は天を衝くように聳え立ち、どこまでも続く市は絶え間なく流れる人の川だった。こうして世界を又一つ知った私は、リスボンに寄航した。ギルドで報酬を受け取った私は、交易商の元で再び驚愕の事実を知った。なんと、セウタで仕入れた香料が、セウタより安く売られていたのだ。その後、その香料はどこに行っても高く買ってくれる者は無かった。私が買った直後に香料が暴落したらしい。私が経験するはじめての不良在庫だった。不良在庫は性質が悪い。持っている限り、本来行えるべき商売が、受け取れるべき利益が、延々と削られつづけていくのだ。私は商人のプライドを曲げて、泣く泣く、赤字で売り払うことにした。
 こうして近海の航海に慣れて来た私は、次に外洋に乗り出すことにした。目指すは大西洋に浮かぶ孤島マディラである。マディラ島は比較的近くにあるとはいえ、何の目印もない大西洋に浮かぶ離れ小島である。水も食料も、遭難に備えて少し大目に積むことにした。リスボンを出航したときは、流石にもう帰って来れないかもしれないと、胸に込み上げる物があった。日が経るに連れ、周囲に船が少なくなり、いずれ誰も居なくなった。地平線のどこにも陸地は無く、心なしか海鳥も見なくなっり、風も吹かなくなった。まさに星と羅針盤だけが頼りの航海になった。もし方角が間違えていたら、このまま大西洋を漂流し、水も食料も尽きて、海の藻屑となってしまうのだろうか。あるいはサルガッソーの怪物に食われてしまうか、さ迷えるオランダ人のように幽霊船となってしまうのだろうか。
 それからさらに数日経つと、船員達に動揺が広がりだした。故郷を思って泣く者が増え、些細な理由で喧嘩をするようになった。私も泣きたいほど不安であったが、部下達の手前、泰然自若を演じていた。もはや戻れるだけの水も食料も無かった。
 さらに数日、もう既にマディラに着いてもおかしくない時期だった。
 さらに数日、水と食料が不安に成り出した。そんな時だった。マストに張り付いていた水夫の一人が、水平線に島影を見つけたと騒いだ。もはや、喧嘩をする気力も無くなった船内は、火がついたように湧き上がった。不覚にも誰よりも一番私がはしゃいでしまった。残された水樽と干し肉が全て甲板に引き出され、大騒ぎになった。船員達の心が一つになった。突然噴出した風が、帆を膨らませた。
 マディラは南国に相応しい島だった。潮と日に焼けた人々が、常夏の島で笑いあって暮らしていた。市には数々の異国の物産で埋め尽くされ、まさに宝の島のようだった。そこで仕入れた砂糖は、私に一財産をもたらした。来るときはあれほど郷愁に顔をゆがめた船員達は、帰る時もこの楽園を離れたくないと顔をゆがめた。私は、どうせ今後もちょくちょく来るのだと、船員を宥めた。勿論、その言葉に嘘偽りは無かった。おかしなもので、そんな船員達も、ポルトガルの海岸が見え出すと、故郷を思い出して泣いた。ポルトガル、もはやなにもかも懐かしい。そんな時だった。突如、砲声が響き渡った。海賊、いや海軍崩れの襲撃だった。敵船から放たれた鋼鉄の砲弾が、放物線を描いて甲板を粉砕した。私は彼らに構わず、全力で逃げ出すことにした。不思議なことに私に戦への要求や功名心はなく、純粋に戦で出る損害が厭わしかった。もはや根っからの商人になってしまったのだろう。自分の庭とも言うべきポルトガル近海の地の利を利用し、最初の一撃のみで逃げ出すことに成功した。

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